ふるさとの歌(II)-オーストリア

ふるさとの歌(II)
(4)Erzherzog Johann Jodler
ヨハン大公が愛した故郷オーストリア
 
ふるさとの歌(II)第4回はまたヨーロッパへ戻り、中央に位置する中立国オーストリア(Österreich)グラーツ(Graz)を州都とするシュタイアーマルク(Steiermark)の曲です。
第2回のオーストラリア(Australia)とは異なる国ですのでお間違いなく。
 
州都グラーツには   SK Sturm Grazというサッカークラブがあり、オシム元日本代表監督がJEFユナイテド市原・千葉に来られる前に指揮をとっておられました。このクラブははシュタイアーマルク州の誇りでもあり、クラブが経営危機に陥った時、州の人々がみんなで支援してくれてました。
日本で言えば、山の国山梨のヴァンフォーレ甲府といったところでしょうか。
 
オーストリアは1278年からハプスブルク家のもとに置かれていましたが、1806年8月神聖ローマ帝国が解体すると、それまで神聖ローマ帝国の皇帝であったフランツ2世(Franz II)がオーストリア帝国最初の皇帝、フランツ1世(Franz I)として皇位に就きました。
フランツ1世にはヨハン(Johann)という弟がいて、有能な軍人だったのですが、ヨハン自身は基本的に軍が好きではなかったようで、自分と一緒に戦った兵士がたくさん亡くなったことに深く罪の意識を抱いていたといわれます。そして、貴族社会から離れ、祖国オーストリアの、特にチロル(Tirol)地方シュタイアーマルク地方に思いを馳せていました。
 
オーストリアはフランスと戦いを繰り返していましたが、19世紀に入り、司令官としてチロルに攻め入ったナポレオン軍がオーストリア軍に襲いかかり、ついにヨハンの主要部隊が敗れ、オーストリアはナポレオン軍の手に墜ちてしまいました。
もはやチロルを去るしかなくなったヨハンは帝国の首都ウィーン(Wien)へ戻りました。ヨハンはこの後、チロルへ入ることができなくなりました。ヨハンの足が向かった先はシュタイアーマルクだったのです。
 
ヨハンは地方産業を発展させるとともに、その地方の科学や教育にも熱心で、学校や病院の建設にも携わりました。
貴族の生活に疑問を抱いていたヨハンは30代まで独身でしたが、37歳の時、平民のアンナ・プロッフル(Anna Maria Josephine Plochl)と全く偶然に出会い、2人はお互いに愛し合うようになりました。出会った当時アンナは15歳でした。彼らは3年後に結婚します。しかし、その当時は「貴賎結婚」として皇族から猛反発を受け、正式に結婚が認められたのは更に7年後の1929年でした。ヨハン47歳、アンナ25歳、実に10年越しの結婚でした。
結婚後、ヨハンは皇位継承は放棄しましたが皇室の一員に留まり、シュタイアーマルク地方の発展に力を尽くし、多くの民衆から親しまれました。
彼が77歳で死去した後、誰がいつともなく歌い出したのがヨハン大公のヨーデル(Erzherzog Johann Jodler)です。
 
 チロルとシュタイアーマルク Weltatlas(RV Verlag,ドイツ)に国境線と日本語を加筆

 
詩はオーストリア方言を含んだドイツ語で書かれています。
「詠み人知らず」の特徴で、歌詞はひとつではありません。
アーティストが歌っているものもそれぞれ別々のことが多いのはこの種の歌に共通のことです。
代表的な詩と私の拙訳を書いておきます。参考にしてください。
 
Wo i’ geh’ und steh‘ tut mir ‘s mei’ Herz so weh         私の心はここで悲しみに包まれている
Um mei’ Steiermark, ja, glaubt’s ma ‘s g’w         私が心にとめているシュタイアーマルクでは
Wo das Büchserl knallt und wo der Gamsbock fallt        銃声が鳴り響きかもしかが倒れる
Wo mei’ liaba Herzog Johann is‘               そこは私の愛するヨハン大公の住むところ
       -Jodler-                          -ヨーデル-
Holaredlduliri, diridldulio, diridldulio, diridldulio.          
Holaredlduliri, holaredlduliri, ridirididuliridi redlduliri,           
di redlduliri, di rijodirijoi ri.
 
Wer die Gegend kennt wo man ‘s Eisen brennt         誰もが知っているこの地では鉄が熱され     
Wo die Enns* daherrausch unt’n im Tal               そこではエンス川が谷を流れる
Und vor lauter Lust Schlogt gleicht die Brust            喜びが胸を高鳴らせるように
Wo so lustig alles überall                 至るところ全てが楽しい
       -Jodler-                             -ヨーデル-
 
In sein Steirerg’wand auf der Felsenwand,          岩壁にかかったシュタイアーマルク服は      
Schauts: Erzherzog Johann steht noch dort.          ヨハン大公はまだここにいると言っているようだ
‘S hoaßt, er war schon tot  o Du liebe Gott!          大公はもう逝ってしまったけど、おお、神様!
Für uns Steirer lebt er fort und fort.           シュタイアーマルクの私たちにとって彼はずっとずっと生きている。
               -Jodler-                                 -ヨーデル-
 
*Enns:エンス川~シュタイアーマルクの山岳から流れリンツの東でドナウ川と合流する。
多くの文字が ’ で省略されています。適宜補ってください。英語と同じように、よく見られる現象です。
(i’=ich、geh’=gehe、’s=es、mei’=mein、g’wiß=gewiß・・・)
で書いた文字はそれぞれお互い押韻していることを示します。ふんだんに韻を踏ませています。
 
ドイツ語の読みはそう難しくはないのですが、初めての人は慣れるまでにちょっとした時間が必要かもしれません。(規則的ですが、その規則がたくさんあります。)
母音には ä、ö、ü  といった、文字の上にウムラウトと呼ばれる記号のついたものがあり、äは口をやや大きく開けた「エ」(日本語のエに近い)、öはオとエの中間の音で「オ」の口をして「エ」を発音する時に出る音で日本語表記ではエ(schön=シェーン)üは「ウ」の口をして「イ」を発音する時の音で日本語表記では「ユ」(Hütte=ヒュッテ)です。
g’wißの最後尾の文字「ß」は「エスツェット」と言い、元々はsとzが一緒になったもので、発音は例外なく「サ行」です。
コンピューター等にこのフォントがない時はssで代用されます。
単独では使われ方によってサ行、シャ行、ザ行になります。(steh’=シュテー、Steiermark=シュタイアーマルク、soゾーBüchserl=ビュフルル、das=ダ、Brust=ブルト)
YouTubeからはドイツのアーティスト、マリアンネ・ハールトゥル(Marianne Hartl)の歌を選びました。歌詞は大体上に書いた通りですが、一部異なります。
    

2件のコメント

  1. ヒース

    どんぽの ばぶ3さんコメントありがとうございます。ヨーデルはまさにヨーデルの部分で歌い手の個性が出ますね。私も少年時代ヨーデルが好きで、それを聴きたいために短波でスイス放送に周波数を合わせていました。カッコーは日本ではのんびりしたイメージがあるのですが、ヨーロッパではどうなんでしょうか?そんなことを考えてみるのも楽しいことかもしれません。

  2. ばぶ3

    いまから30年以上前、中学生だった時に2度目に購入したLPが「アルペニョーデル」というアルバムで、そのなかに印象に残っていた曲で「ヨハン大公のヨーデル」というのがありました。それを聴きたくておぼろげな記憶をたどってYou Tube を探していましたがそのたび見つけそびれていたのですが、ここで聞くことができたのは、ひょんな喜び。Yuo Tube をいろいろさまよっている時に見つけたヨーデルの中で一番インパクトのあったのはこのヨーデルです。http://www.youtube.com/watch?v=B1oDrPy-XrA&feature=relatedどんなに眠い朝でもきっちり目覚めさせてくれるような元気がみなぎっています。ただし宮澤賢治さんの「セロ弾きのゴーシュ」に出てくるカッコウとはちょいと趣が違う感じです。やはり日本のカッコウとチロルのカッコウとでは少し違うのかもしれませんね。

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